:Phase-23 「戦火の蔭」妄想版
命を奪うつもりはなかった。

腕の武装を斬り飛ばすだけのつもりだった。 だが、斬撃の瞬間あのオレンジの機体は、こちら側に横飛びしてきたのだ。 バルドフェルドの乗るムラサメの攻撃を回避したからだ。 
どうしようもなかった。

フリーダムのコクピットは稼働中のMSと思えないくらいに暗闇に包まれている。 キラの息も荒い。 グフにパワーダウンされ回復が追いつかないから、前面のセンサーとビームサーベル以外のエネルギーを全て推力に回したからだ。 おかげでアークエンジェルやムラサメの牽制もあり、ギリギリで追いつくことが出来たのだ。

フリーダムの核エンジンが再びその活動を再開し、青き翼に色が戻る。
「今のは仕方がないキラ。 気にするな」
「バルドフェルドさん…」
「あれは、アークエンジェルを真っ直ぐ狙っていた。 ひょっとしたら、この間の特殊部隊の一味かも知れん。」
「ええ、僕もそう思います。」
「ああしなければ、こちらがやられていたんだ。」
だけど、やられるから、やっていたんじゃ今止めようとしている戦争と何も変わらないじゃないか。

「くそ!」
キラはフリーダムを再び戦場に向かわせる。
「バルドフェルドさん。 カガリとアークエンジェルを任せます。」
「あ? ああそれは構わんが、アレは良いのか?」
アレとは、赤い機体セイバーのことだ。

キラはすこし考えたが
「あの機体は大丈夫です。 アークエンジェルを撃つような事はしないと思います。」
「? そうか、お前がそう言うなら。」
正直、バルドフェルドにはキラの考えが理解できなかったが、この少年は時々全てを見通したように物事を判断することがある。 

「じゃあ、行ってきます」
スラスターを後面に集中させ、急加速をかけて戦場へ舞い戻るフリーダム。

-

「とはいったものの、あの奇妙なMSくんは一体なんなのかね」
キラの言葉を疑うわけではないが、セイバーは今し方アークエンジェルに肉薄したグフと同じ戦艦から出撃した機体だ。 警戒に越したことはない。

「キラァ…っ!!」
コクピットでアスランは唇を噛みしめていた。 ハイネが何故アークエンジェルに向かったのか。 今はそんなことより、再び友の機体を討ったフリーダムに心を囚われていた。 何故、キラがまた同胞を…!
「待て! キラ!」
セイバーは変形し、フリーダムを追うように戦場へ戻る。 キラに追いつかなければ。 だが、それはすぐにはかなわなかった。 ミネルバからSOSが入ったからだ。

「ザラ隊長? 応答してください、ザラ隊長!」
「ミネルバ!?」
「やっと繋がったようね。 アスラン、すぐ戻ってちょうだい。 ルナとレイだけでは対応しきれないわ」
「ですが、あの機体はフリーダムは、ハイネを…」
「それはコチラでも確認しているわ。 でも今はそれどころじゃないの、このままじゃ…あああ!」
通信の映像が乱れた、どこかに被弾したのだろう。
「くっ!」
アスランはミネルバに戻るしかなかった。 これ以上失うわけにいかないから。

-

ミネルバからほど近い小島の上空。
シンは二機のガンダムに翻弄されていた。 頭をカオスに抑えられ、海中からはアビスが襲ってくる。
「くそ! お前ら!」
「お前とは永いつきあいだが、これで終わらせる。 アウル!」
「ハイハイ。 イチイチ命令すんなよ!」
減らず口を叩くもアウルはスティングの要求通りインパルスの動きを止めるようにバラエーナを放つ。
「くう!?」
その砲撃は躱せる。 しかし機体はすぐには動けない。

「終わりだ!」
動けないインパルスにカオスのビームサーベルが襲う。
「なめるなあ!」
フォースシルエットを強制排除し、その勢いを利用し紙一重でその一撃を躱す。
しかし、フォースシルエットはカオスに切り裂かれてしまった。
「しつこい!」
「うわああ!?」

翼を失い、インパルスは小島にたたきつけられた。
だけど、ココならアビスの攻撃は届かないし、カオスもすぐには攻めてこられないはずだ。 一瞬の安堵。 そして戦慄。
シンは大事なことを見落としていた。 奪われたガンダムは三機。 今目前にいるカオス、アビス、そしてガイア。 そのガイアは「今まで」戦場にはいなかった。

「しまっ…」
シンの直感は的中した。 岩場の陰からMA状態のガイアが飛びだしてきたからだ。 あの三機は俺を初めからココにおびき寄せるために!?
「いいかげん…!落ちなさい!」
ステラは斬り裂くようにガイアの翼に装備されたビームブレードをインパルス叩きつける!
「このお!?」
ギリギリの緊急回避シールドが間に合った。 直感が無かったら今ごろ真っ二つだったかもしれない。
だが戦況は何も変わらない。 再び海に戻されてしまったからだ。

海に落ちたインパルスと自分の立ち位置を確認してアウルが笑みをうかべる
「まとめて沈んじゃいなよお!」
一瞬遅れてシンは事態を理解できた。
自分のすぐ後にミネルバがいる。 アビスの攻撃をかわすとミネルバに直撃される!
手段を選んでいる余裕はなかった。 既にアビスは海上に姿を表し、全ての砲門をインパルスとミネルバに向けていたからだ!
「ハアーー!」
「くっっそうおお!!」
アビスの胸に装備されたカリドゥス複相ビーム砲だけは防がなくてはいけない!

-

「シン!?」
ルナマリアは視認できる距離にいるインパルスに視界を奪われた。 あの三機! また来ているの!?
「ルナ、前面に集中しろ来るぞ!」
「え? ああ!??」
視界を奪われた間に三機のウィンダムが迫っている。 速い!
ガナーウィザードのオルトロスでは間に合わない!?

-

インパルスは身を投げ出し、アビスの砲撃を防ぎきった。
しかし、ビームライフルは撃ち抜かれ、シールドも砕かれた。
飛ぶ翼をもがれ、敵を撃つ銃を失い、守る盾を砕かれたのだ。

インパルスは残された武器「フォールディングレイザー」を両手に装備した。 しかし虚勢に過ぎない。 今のインパルスにこの三機に対抗する手段は、無い。
シンの喉はカラからだった。 ツバも飲めない。 冷や汗を止めることが出来ない。

来る!

その瞬間、三機のガンダムはその場を離脱した。 直後着弾するビーム。
「!?」
砲撃の主はフリーダムだった。 戦場に戻ったフリーダムは戦闘を停止させようと全ての機体の武装を狙って攻撃していた。

「あの機体…なんで!?」
インパルスは全ての装備を失っていたから、標的にはならなかったらしい。

-

ルナマリアの瞳孔が収縮する。 その刹那、三機のウィンダムは、武装とジェットストライカーを打ち砕かれた。 インパルスを救ったように、フリーダムはミネルバに迫るウィンダムも攻撃していたからだ。
「あいつ、味方なの!?」
「艦長、アレは?」
「今は、相手にしないほうが良さそうね、レイ。」
「了解」
「いきなりこちらの艦首砲を撃ち抜いておきながら今度は守るって言うの?」

-

「スティング! アイツなんなんだよ?」
「俺が知るか!」
「ミネルバ攻撃したんだろ? 味方じゃないのか?」
「オーブの…ってワケでもなさそうだが。」

カオスのスクリーンにはフリーダムの情報が表示される。
「フリーダム? あれもザフトのガンダムなのか?」
「どっちでも良いよ、邪魔するなら僕の敵だ!」
「そうだ、あれは敵だ。 私の敵だ!」
「珍しく意見が合うじゃんか。 お前は島を回ってせめろよステラ!」
「了解っ!」
アビスとガイアが二手に分かれフリーダムへ迫る。

「アウル!ステラ! ちっ勝手なことを!」
いすれにせよ、アレは今落としておかなくては厄介になる。 スティングの直感はそう彼に告げていた。
「二年前のロートルが、今になって!」

-

連合の三機がフリーダムへ戦いを仕掛け始めたとき、ミネルバへの攻撃が小康状態になる。 フリーダムが大半のMSの武器を破壊し、迫ってくる残りの敵もセイバー、二機のザク、ミネルバによって撃破されてしまったからだ。

アスランはフリーダムを探していた。
「アスランさん、シンを、シンがどうなってるかわかりますか?」
「ルナマリア?」
「こっちのセンサーじゃ一ヶ所から動いていないんです、まさか…」
確かにセンサーにはインパルスの信号を受信した反応を示していた。 あれほどの腕を持っているのであれば早々落とされることはないはずだが。
「わかった、俺が見てくる。 艦は任せる。」
「お願いします。」

アスランはセイバーをインパルス元へ急がせる。
「このまま死んでしまったらただのバカだぞ!シンっ!」

-

一方で三機のガンダムはフリーダムを取り囲んでいた。 インパルスの時と同じように頭を押さえ、海から動きを止め、地面に叩きつける作戦だ。
しかし、その攻撃のことごとくが躱されていた。

「このお!? これなら!」
カオスは背中の兵装ポッドを切り離す。 手数を増やせば対応できまい!
死角を取った!
しかし、二基の兵装ポッドは攻撃を始める前に撃ち抜かれてしまう。
「なんだと!」
「何やってんだよ、スティング! 首貰うんじゃないのかよ!」
水中からビームを放つアビス。 それを悠然と躱すフリーダム。

キラは奇妙な感覚にとらわれていた。 この三機、いや三人は以前にも戦ったことがある? ただのナチュラルではないパイロット?

「いい加減当たれってんだよ!」
業を煮やしたアウルがアビスを海上に上げフルバーストショットを放つ。 それを下に躱したフリーダムは水面ギリギリを滑空しアビスに迫る
「な…!?」
一閃。 アビスのビームランスと肩のバインダーのジョイントは切り裂かれた。
「うわああ!?」
「アウル!」

バカが! 水中にいればいいものを! そう思う暇はスティングにはなかった。 フリーダムが目前に迫っていたからだ。
「この…!」
カオスの抵抗空しく両足を切り裂くフリーダム。
「うおお?この俺が…負ける!?」

「てええええ!」
小島の岩陰からガイアが飛びだす。
「!」
キラは冷静にガイアの装備と翼を狙い背中のバラエーナを放つ。
「ステラ! 俺を!」
理解したのか直感したのか、ステラは空中に浮遊しているカオスを踏み台にガイアの軌道を強引に変え、フリーダムの攻撃を回避した。

「たあああ!」
ガイアのビームブレードがフリーダムのシールドに叩きつけられ、フリーダムはバランスを失い降下していく。
「もらうわ!」
下方向にスラスターを全開させ、ガイアがトドメとばかりにフリーダムに迫る。
しかし、フリーダムは腰のレールガンを展開しガイアを狙撃。
「あああ!?」
レールガンの一撃で勢いは殺され、空中で死に体となったガイアの翼をキラは冷静にバラエーナで撃ち抜く。 翼と武器を失ったガイアは海に沈むしかなかった。

-

戦う術を失っているインパルスは、向こうの島で戦っているフリーダムと三機のガンダムを見つめることしか出来ない。
「シン! 生きているか、シン!」
「隊長…アスランさん?」
「良かった、無事かシン。」
「ええ、俺も機体も無事です。 だけど…」
シンの心中は穏やかではない。

時を同じくして、三機のガンダムがフリーダムに敗北した。 フリーダムは再び戦場にいるMSを無力化するために飛び立っていく。

「キラ…! ………シン、アレを止める!手伝え!」
「え? あ、でも今フォースシルエットが…」
シンが言い終わらないうちに、セイバーはMA状態へ変形する。
「乗れ、シン!」

-

「ミネルバ、インパルスのブラストとソードを射出してやってくれ、30秒ずらして」
「え?あ…」
アスランからの要請のため一瞬戸惑うメイリン。
「いいわ、指示通りにして」
まずブラストシルエットが射出された。

-

「アスランさんアレを止めるってどうやって?」
「フリーダムと言っても翼を落とせば動けなくなる、そこを狙うんだ」
「でもそんな作戦…」
「大丈夫、お前なら出来るさ、シン」

「…キラ、ダメなんだキラ。 戦場で武器だけを無くしていてもこの戦争は終わらないんだ。 根本を断ち切らないとこの連鎖は止まらないんだよ。」
自分に言い聞かせるようにつぶやくアスラン。 シンはそのつぶやきの意味を未だに理解できないでいた。

-

「いくぞ、シン!」
「ハイ!」
インパルスはブラスト装備に換装を完了させていた。 超長距離からケルベロスを撃ち放つ。
「!」

ケルベロスの火線を回避しながら、バラエーナを撃ち返すフリーダム。
一直線に飛んでいっているセイバーはそれを躱すことが出来ない。 しかしインパルスはブラストシルエットを瞬時に切り離し、セイバーから離脱した。
撃ち抜かれ爆発するブラストシルエット、セイバーはその爆風に押され失速し落下していく。
キラは、戦闘力を未だ温存しているセイバーを警戒した。

しかし、フリーダムのロックオンアラートは直上を示している。

「上!?どこから!」
太陽から、真紅に彩どられ二本の大剣を装備した機体が現れた。
ソードインパルス。 射出したソードシルエットは太陽に隠すように配置し即座に換装したのだ。

「これなら!」
「!?」
インパルスへ迎撃体制を取ろうしたフリーダムはすぐには動けなかった。 セイバーがビーム砲で牽制したからだ。
「だああああ!!」
インパルスの大剣はフリーダムの翼に一撃を与えた。 根こそぎ持っていくことは出来なかったが、左の翼の半分と左腕を切り裂いた。

「もう一つ!」
シンは二本のエクスカリバーを連結させ、アビテクストラスフォームで斬撃を放つ。 これなら防がれても勢いて押しきれる!

しかし、シンの考えは甘かった。 フリーダムはビームサーベルでエクスカリバーのビームではない方の刃を捌く、その右手に掴んだビームサーベルの柄尻から伸びるもう一本の光の刃がシンの眼に映りこんだ。
ラケルタビームサーベルのバリエーション、スピアーだ。

「な、こんな!」
大剣の懐に飛び込まれ、両腕を切り裂かれるインパルス。 元々飛行能力のないソードインパルスは墜落していくが、セイバーが助け離脱する。

気がつけば戦場はほぼ戦闘が終了していた。 キラは赤い機体に言い知れぬ想いを覚え、アークエンジェルへ帰投していく。

「キラ…!」
セイバーのコクピットでうなるアスラン。
そして、シンは自分の無力さに打ちひしがれた。
Phase-23 了
とまあこんな感じで。 結局のところフリーダムが最強なのは変わりないんですが、シンや他のガンダム達が一矢報いるところは見たかったんですよ。 あとDESITINYに致命的に欠如している、MS同士のコンビネーションというのを重点に置いてみました。 ハイネの事以外は、それほど物語から離れないようにしてみましたがどうでしょう? とにかく、ハイネが普通のパイロットかつ死に方が間抜けすぎるのが悔しくてさあ
無駄な長文最期までお読みいただきありがとうございました。

まあしかし、30分に収まる内容じゃないな(笑)



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